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係り結びの法則 |
文は通常、終止形または命令形で結ばれるが、係助詞の「ぞ」「なむ」「や」「か」「こそ」 が文中で使われる場合、独特な結び方をする。 |
係助詞 |
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結びの活用形 |
ぞ |
→ |
連体形 |
なむ |
や(やは) |
か(かは) |
こそ |
→ |
已然形 |
六野太を馬の上で二刀、落ち着くところで一刀、三刀までぞ突かれたる。(平家物語・忠度最後) (六野太を馬の上で二回刀で突き、馬から落ちたところで一回、合わせて三回も突いた。)
弁もいと才かしこき博士にて、いひかわしたることどもなむ、いと興ありける。(源氏物語・桐壺) (右大弁もとても学才の優れた博士なので、話し合うことなどは、とても興味深いものがあった。)
あかずやありけん、二十日の、夜の月出づるまでぞありける。(土佐日記・一月二〇日) (まだ満足できなかったのであろうか。二十日の夜の月が出るまでそこにいたのです。)
乾き砂子の用意やはなかりける。(徒然草・一七七段) (乾いた砂の用意はなかったのだろうか。)
「殿はなにかならせたまひける」など問ふに、(枕草子・二五段) (「こちらの殿はどこの国司になられましたか。」などと問うと、)
「ここにても、人は見るまじうやは。などかはさしもうち解けつる」と笑はせたまふ。(枕草子・八段) (ここでも、人が見ていないとは限りません。どうしてそのように気を許したのですか。)
人あまたあれど、一人に向きて言ふを、おのづから人も聞くにこそあれ。(徒然草・五六段) (人が多くいても、一人に向かって言うのを、自然と他の人も聞くものだ。) |
係り結びの省略 |
係助詞があるものの、結びの語が省略される場合がある。 |
夜を明かしてこそは(返し移し奉らめ)とたどり合へるに、(源氏物語・明石) (「夜が明けてから(お移ししましょう)」とまごついている時に、)
飼ひける犬の暗けれど主を知りて、飛びつきたるけるとぞ(いふ)。(徒然草・八九段) (飼っていた犬が暗かったけれども飼い主を見分けて、飛びついたということである(と言う。))
深き山を求めてやあと絶えなまし、とおぼすにも、波風に騒がれてなむ(深き山に跡絶えぬ) と、人の言ひ伝えむこと、(源氏物語・明石) (深い山を求めて行方を消してしまおうとお思いになられるも、波風に驚かされて(深い山に入ってしまったのだ) と人々に語り伝えられては、)
ほととぎすのよすがとさへおもへばにや(あらむ)、なほさらにいふべうもあらず。(枕草子・三七段) ((橘は)ほととぎすの寄り所と思ってしまうので(あろうか)、なおさらに言いようがなく素晴らしい。)
今さらかくやは(あるべき)。(徒然草・三七段) (今さらそんなことをすることがあろうか(あろうはずがない))
いかなることのあるにか(あらん)。(徒然草・二三四段) (どういうことがあるのか。(あろうはずがないだろう))
「跡のため忌むなる事ぞ」など言へるこそ、かばかりのなかに何かはと(忌むことあらん)、(徒然草・三〇段) (「跡に残ったもののために忌み避けることです」など言うのは(悲しみの中で)、 どれほどの縁起をかつぐことがあろうか。(あろうはずがないだろう))
「あまりにものさわがし。雨やみてこそ(尋ね給へ)」と言ひければ、(徒然草・一八八段) (あまりにも騒がしいことだ。雨が止んでから(お出かけなさい)と人々が言うので、) |
係り結びの消滅(流れ) |
結びの語があるものの、文が完結せずに、接続助詞を伴って下に続く形になっているため、係り結びが 成立しない場合がある。 |
宮よりぞ出でたまひければ、(源氏物語・野分) (宮中からお出かけになっていたので、)
御守り目はべるなむ、うしろやすかるべきことにはべるを、(源氏物語・若菜上) (お守り役(夫)のおりますことは、安心のできることではございますが、)
いつぞや縄をひかれたりしかば、(徒然草・一〇段) (いつだったか縄をお引きになったことがあったので、)
当時御方に東国の勢何万騎かあるらめども、(平家物語・敦盛の最後) (現在では、味方として東国の軍勢が何万騎があるであろうが、)
それはさこそおぼすらめども、おのれは都に久しく住みてなれて見侍るに、(徒然草・一四一段) (あなたはそう思っていらっしゃるけれども、私は都に長く住み親しんでみますと、) | |
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