八月の濃闇
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石瀬琳々 |
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茜色の朝焼けに目覚めていくたびに
かすかな鳥の羽ばたきに緑の森を思い 窓辺に揺れる光に暮らしを思う 額を触れゆく風はやがて 空の高みへと還ってゆく 確かな鼓動に手のひらを重ねて 送る日々はこんなにもやさしい
けれど 八月に耳をすませば 漠とした濃闇が身ぬちに広がる 遠い昔戦(いくさ)があった 今この瞬間にも その声なき声に耳をふさいではいけない 遠く連なる墓標の上に 過ごして来たいくつもの時間がある この濃闇に目をそらしてはいけない 人と人とが争う罪を 痛みを 慟哭を ひたと見すえる瞳が欲しい 強い瞳が私は欲しい
茜色の朝焼けに幾たび目覚めていこうと 八月の濃闇はそこに在り続ける その闇を宿し生きていく勇気があればと この光に揺れる静かな夏に
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作品の著作権は作者が保持します。無断転載を固く禁じます。 | |
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形式…口語自由詩 主題=「戦争と平和への願い」
主な表現技法…
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解説 |
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※はじめに 詩というものは、読み方は自由であり、ここで 解説する内容はあくまでも作者・編者の主観に よるものであることをあらかじめ記しておきます。
私も戦争を知らない世代です。この詩はさる 八月、新聞記事に目をとめて、そういえば今年 もそんな日がめぐって来たのだなと、漠然と 思った事から生まれました。漠然と・・・ そう思った自分が恥ずかしかったのです。 世の中は平和になりました。戦争の記憶も 薄れつつあります。けれど、このおだやかな 日々は戦争の犠牲の上に成り立っているのだと、 豊かな今こそ、見つめる必要があるのではない かと、自戒の思いで書きました。記憶は風化 させたくないものです。語り継いでいかなければ いけませんね。
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