東京スタンバイ
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一日ミチル |
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・ 標準語のウィルスに感染して とうとう方言を失ってしまった 翌日から わたしは意味も無く ビルとビルの間に挟まったり 焼きたてのパンを買って 全部四十雀にやったりしている 虚ろな身体の様々な部位には まだウィルスが動きまくっている
・ 東京の犬ってすぐ死にそうな気がする と思ってわざわざ郷里から犬を拾ってきたけども すぐ死んでしまった 何でも食べると思ったけどダメだった
代わりに東京の犬を買ったけども これはすくすくよく育ち もうすぐ五歳になる 休みの日にフリスビーを投げると怯えて逃げるが おおむね健康である
体毛を嗅ぐと ちゃんと犬くさい
安心した
・ 東京に出てきてからやたらお腹が空くので 色んなものを欲求のままに食べていたら 指がどんどん長くなって 水分がするする蒸発した
翌日 喫茶店でコーヒーを飲んでいたら ボールペンがするっと何かの隙間に落ちてしまった 長い指できちんと拾った
なるほど 適応してきている
・ 板チョコを食べながら曲がり角を曲がっても 転校生とはぶつからなかった
電柱の陰で観察していたら どうやら食パンをくわえた小奇麗な女子が 転校生とぶつかることになっているらしい
曲がり角の向こうには ぶつかる予定の転校生がわんさと列をなしている
通りすがるとき ファイト と肩を叩いて ガーナを完食した
マニュアル と呟くと口から温かい息が漏れた
・ 夜中に急におそろしい気持ちになって飛び起きて 立て続けに何本も煙草をふかしたりしてしまう
気持ちが切迫している
だんだん適応してきたんだけど まだ怖い
キャリアウーマン と呪文を何度も呟いてようやく落ち着いた
東京 東を向いてもビルしか見えない
不健康な顔で笑ってみた
パソコンが連動したかのように スタンバイから目覚めて
ウィーンと泣いている
指が長くなったので もうキーボードは打てない
・ 夜明け 失った方言 を空に探してみたが
見つかるわけも無いまま
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作品の著作権は作者が保持します。無断転載を固く禁じます。 | |
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形式…口語自由詩
主題=「故郷ではない場所にいるちぐはぐ感、 寂寞感、浮遊感」
主な表現技法…
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解説 |
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※はじめに 詩というものは、読み方は自由であり、 ここで解説する内容はあくまでも作者・ 編者の主観によるものであることを あらかじめ記しておきます。
読み取って欲しい、というところは、 「寂寞感・浮遊感」です。 また、作中に表現した「東京」への 印象は標準語のウイルス、東京の犬は すぐ死ぬ、マニュアル、キャリアウーマン、 不健康な顔、等から、どのような情景を 想像したか、またその印象に共感する か否か、というようなことも、考えて いただきたいと思います。 |
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