遠近法
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安部行人 |
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彼の眼は遠くの風景を見る 地平に沈む夕陽の色 冬に砕ける灰色の海 湿地を覆う冷たい霧
彼の耳は遠くの音を聞く 森に降る激しい雨 向こう岸の教会の鐘 鉄橋を越える貨車の響き
彼の心は遠くのものを愛する 真空に凍る星の輝き 本のなかの偉大な奇跡 いつか見た終末のまぼろし
彼の眼に近くの人間は映らない 彼の耳に近くの声は届かない 彼の心は近くの苦しみでは揺れない
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作品の著作権は作者が保持します。無断転載を固く禁じます。 | |
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形式…口語自由詩
主題…「分裂」
主な表現技法…対句法
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解説 |
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※はじめに 詩というものは、読み方は自由であり、ここで解説する 内容はあくまでも作者・編者の主観によるものであること を予め記しておきます。
「遠近法」の主題は「分裂」です。 身近なものごとには関心がなく、遠い場所のできごとには 興味を持つ。 身近な人間の感情には興味が無いが、フィクションのなか の感情表現には感動する。 分裂は現在のわれ‐われにとってごく当たり前の状態であり、 それについて是非の判断を行わず、ただ観察の眼をもって 眺めるのみ、というのがわたしの立ち位置です。
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