無言電話
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umineko |
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無言電話がかかってきたので、無言で待った。
遠くから、海の音がした。
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作品の著作権は作者が保持します。無断転載を固く禁じます。 |
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形式…口語散文詩
主題…「寂寥という対話」
主な表現技法…反復法、隠喩法
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解説 |
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※はじめに 詩というものは、読み方は自由であり、ここで解説する内容 はあくまでも作者・編者の主観によるものであることを予め 記しておきます。
無言電話をかけるという行為、それ自体は負の感情に由来 するものでしょう。その行為に踏み込む側と、それを受け 止める側。距離を隔てて対峙する、かたちを持たないコミ ュニケーション。これが、作品の主題になります。コミュニ ケーションツールとはなり得ない「無言」というタームが 反復され、ふたりのよりどころとなっています。
無言であることで、私たちは気配に敏感になります。そこで 主人公が気付くのは、かすかな波の音、あるいは海鳥の 鳴き声でしょうか、背後の、海の存在。となると、相手は どこにいるんだろう。波打ち際で砂を踏みしきながら、用心 深く非通知にした携帯電話。あるいは、海沿いの国道で、 所在無く立ちつくす公衆電話。
無言電話という、ある種卑劣で痛ましい行為はしかし、海と いうアイテムを得ることで、あらたな意味を与えられることに なります。主人公にとって得体のしれない恐怖/不安、それ には違いないけれど、それは都市の持つ病理から発せられた ものではないこと。すなわち、見知らぬ誰かではなく、とても 身近で、しかしことばを持たない何者かが、海辺に立つのでは ないか、と。
このあと、ふたりの間にことばが降りてくるのかどうか、それは わからない。相手を確かめるためのなんらかのアクションが 主人公から起こされるかもしれないし、このまま時間が過ぎる のかもしれない。正解がないということも、詩に許された贅沢 です。
作品では、カ行やタ行という無声音を多用しています。有声音 は、「無言電話」の「無」、「海の音」の「うみ」「の」「お」くらい です。無声音の乾いた響きと、挿入される「海の音」という文字 列の持つやわらかさに少し力を借りています。音のイメージ や手触りに対して敬意を払うというのは、短歌や俳句と変わる ところではありません。
憎しみや哀しみも。それさえ、私たちの営みの中で、どうしよう もない弱さから発せられるものではないか。それを受け止める ことができれば、世界は少し、変わることができるのかもしれ ない。作品全体が、そういった事柄へのメタファ(暗喩*=遠い たとえ)にもなっています。
(*暗喩:隠喩とも呼ばれ、こちらのサイトの解説ではそうなって いるのですが、ここではあえて暗喩と表記しました。文章の流れ からはそちらの方が寄り添うからです。ご了承下さい。)
詩は基本的にファンタジーであることを許されます。できれば、 そこに「希望」が内在されて欲しい。そんなふうにも、思います。
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